
「クリぼっちはやだな」
掲示板のタイトルが気になった。
クリぼっちとは、クリスマスにひとりぼっちという造語のようだ。たしかにクリスマスをひとりで過ごすのは寂しい。俺のように四十過ぎの男になればクリスマスなどどうでもよいが、若い独身女性には辛いものがあるだろう。クリックしてみた。
名前は真由美。矢板市に住む二十三歳のフリーター。顔は普通以下。あえて言うならブス。こんなブスでもクリぼっちはいやなのか。イブに男とデートしたいのか。その顔を眺めながら、あれこれ妄想。
俺が出会い系に登録したのは若い女とセックスするためだ。妻とは深刻なセックスレスでもう三年ほど交渉がない。仲が悪いわけではないが、年々性的魅力を感じなくなり、もはや抱く気にはならない。とはいえ俺もまだ四十代。五日も禁欲すればぎんぎんに固くなる。
―若い女をセフレにしたい―
この欲望が日に日に強まった。
だが愛人を持つには金が要る。調べたが、若い女が既婚男性と体の関係になる場合、「セフレになる」でなく「愛人になる」という高い意識を持つようで、相応の身分になりたがるらしい。不釣り合いな年齢差。結婚に結びつかない不倫関係。その代償として金品を要求したくなるのは当然かもしれない。「女を囲う」という昔ながらの言葉があるが、愛人を作るということは、すなわち愛人を養うことを意味し、その点は今も昔も変わらないのだろう。愛人を作る前に金持ちになる必要があるのだ。
だがお小遣い月三万円の俺には不可能。やっぱり愛人は無理か。金持ちでないと若い女とセックスできないなど、何という格差社会だろう。
煙草に火をつけてふーっと煙を吐く。
待てよ。
このブスが俺に金を要求するだろうか。モテない女は相手が独身であれ既婚であれ、男から言い寄られるだけで満足するのではないか。金を要求しないばかりか、むしろ自分を女として見てくれた嬉しさからあらゆるデート費用を負担してくれるかもしれない。ブスを狙えばセックスできるかもしれない。
パソコンの前で背筋を伸ばし、真由美にメールを送った。
「クリスマスイブ、僕と過ごしませんか? 既婚のおじさんだけど、冷えた君を温めてあげます。イブが楽しい交際のきっかけになるといいな」
若い女とセックスできますように、とイエス・キリストに祈る。
十二月二十四日。
冷たい夜風が身に沁みる、と言いたいところだが、真由美が腕を組んで身体を密着させてくれているので温かい。街路樹を飾るイルミネーションがいつもと違って見える。
「あのお店のスープ美味しかったわ」
「クリーム系は苦手だけどコンソメは好きだ」
「クリスマスだからクリームがいいんだけど、まあいっか。楽しかったから」
厚手のコートを着ているが、柔らかな女体の感触が伝わってきて、腰や尻の曲線が目に浮かぶ。ブスでも体は若いのだと思うとムラムラし、急にセックスしたくなる。不意に起こったその欲望が俺を苦しめる。真由美がしきりに話しかけるが、ろくに聞いていない。
ホテルに誘うきっかけが欲しい。大人の女ならば、男がホテルに誘いやすい雰囲気を演出してくれるのだろうが、真由美はそんな素振りを少しも見せず、夜空を指さして「あ、北極星だ!」なんてはしゃぐ始末。我慢の限界が来た。
「どこかで休もうか」
「休む?」
「休憩だよ・・・ホテルで」
意味がわかったようで、言葉少なになり、アップテンポだった歩調も遅くなった。
「それが目的だったの?」
「君を温めてあげると書いただろう」
沈黙の後、真由美が急に立ち止まってコートの袖をつかんだ。
「私のこと好きでいてくれる? ずっと好きでいてくれたら、ホテル行ってもいい。身体だけの関係にはなりたくないもん」
恋愛感情は微塵もないが、セックスのためなら嘘も方便。好きだ好きだと耳元でささやく。
聖夜のセックス。
ブスだが若いだけに張りがあり弾力もある。真由美は初体験だったようで、かなり痛がった。妻以外の女を抱いたのは初めてだったので、その意味では俺にとっても初体験だった。しかも三年ぶりのセックス。童貞を捨てた気分だった。
「おじさんにバージンあげたんだからね。私を大事にしてね」
「わかっているよ」
初体験の相手に思え、特別な感情がわく。身体だけでなく心まで結ばれたような気になる。
交際を続けるうちに、だんだんとブス見えなくなっていった。彼女にしかない個性的な美しさに気づくようになった。
真由美はセフレでも愛人でもない。
恋人だ。